歩行障害とは
歩行障害とは、何らかの原因によって歩くという動作が難しくなる、あるいはまったく歩けなくなることを指します。
身体の他の部位は健康なのに、ほぼ寝たきりになってしまうということがあります。また軽度であっても、外出、人との交流の減少などにより、運動機能・認知機能の低下につながることがあります。
「歩行」は、私たちが社会的な生活を送る上で重要な役割を担っています。痛み、しびれ、動かしづらさなどによって歩行に難しさを感じた時には、お早めに当院にご相談ください。
歩行障害の種類と症状
脳の病気に
多いもの
痙性歩行
脚が曲がりにくく、つま先立ちのような姿勢で、つま先を引きずるような歩行です。室内など、ほとんど段差のないところでも転倒しやすくなります。
はさみ足歩行
両膝が密着またはほとんど離れず、X脚のようなシルエットで、主に膝下を動かして進む歩行です。
鶏歩
足を前方に伸ばした時にも足首が垂れており、つま先が上を向かない歩行です。つまずきを回避するため、無意識に足が大きく持ち上げられます。
動揺性歩行
腰を左右に振りながら進む歩行です。一歩ごとに、腰や肩の水平ラインが大きく傾きます。
小刻み歩行
ちょこちょこと、小さな歩幅で進む歩行です。前屈み・猫背・手の振りが小さいという特徴を持ちます。
失調性歩行
筋力低下、運動麻痺がないにもかかわらず、スムーズに歩けない状態を指します。
小脳に原因がある場合は、足を大きく開いた歩行になります。
骨・関節に多いもの
間欠性跛行
しばらく歩くと脚の痛み、倦怠感が現れるものの、休憩をとると症状が軽快し歩行を再開できる状態を指します。そのため、連続して長く歩き続けることができません。
墜落性跛行
歩行の一連の流れの中で、片脚で立っている時に、反対側の骨盤が下降する歩き方を指します。右足と左脚の長さに差がある場合によく見られます。
心因性のもの
心因性歩行障害
身体機能には異常がないものの、何らかの精神疾患によって歩行が困難になっている状態です。
通常、精神科や心療内科で診断・治療が行われます。ただし、画像検査で身体機能の異常が見つかることもあるため、脳神経外科、整形外科等の受診が必要になることもあります。
歩行障害・姿勢の
ゆがみの原因として
考えられる病気
脳の病気
脊髄小脳変性症、
多系統萎縮症
小脳・脳幹の萎縮によって、歩行障害、筋肉の硬直、血圧コントロール不良などが生じます。
はっきりとした原因は解明されていません。
脳卒中
脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血などによって脳が障害され、その後遺症として歩行障害・運動障害・言語障害が残ることがあります。
脳梗塞・脳出血は動脈硬化等を、くも膜下出血は脳動脈瘤の破裂を主な原因とします。
ウェルニッケ脳症
ビタミンB1の欠乏を主な原因として、言語障害、眼球運動障害、運動障害が引き起こされます。歩行障害では、失調性歩行が認められることが多くなります。
その他、お酒の飲み過ぎを原因として発症することもがあります。
パーキンソン病
筋固縮に伴う歩行障害、姿勢反射障害をきたすことがあります。動き出しにくさ(Frozen gait)、動き出したら止まりにくい突進歩行などが特徴的です。
主としてドパミン神経の変性が病態の柱ですが、その原因については、様々な因子が複雑に関係していると考えられています。50~60代での発症が多く、徐々に症状が悪化します。
脊椎脊髄の病気
腰部脊柱管狭窄症
腰への繰り返しの負荷、肥満に伴う黄色靭帯の肥厚を主な原因として発症します。
腰部脊柱管の神経が圧迫されることで、腰痛や下肢のしびれ・筋力低下、間欠性跛行などの症状が引き起こされます。
後縦靭帯骨化症
後縦靭帯が骨のように硬く大きくなることで、神経が圧迫される病気です。
手足のしびれ、手先の細かな作業の困難、歩行障害などの症状が引き起こされます。
筋肉と骨の問題
足の変形
関節リウマチ、外反母趾、先天性内反足などによって足が変形すると、正しい歩行が難しくなります。
外反母趾は比較的予防しやすい病態です。足に合った靴を履く、ハイヒールを避けるなどの方法で、できる限り予防しましょう。
外傷
下肢の骨折の後遺症、筋断裂などによって、歩行障害をきたすことがあります。
外傷に対する早期の適切な治療・リハビリテーションによって、歩行障害を防ぎましょう。
血管・血液の病気
閉塞性動脈硬化症
動脈硬化に伴い血管が狭くなり、脚の血管が障害されることで、間欠性跛行などの歩行障害、脚の痛み・しびれをきたすことがあります。
筋肉に関連した病気
サルコペニア
食事量の減少による栄養不足、運動不足などによって、筋力が低下してしまった状態を指します。主に、高齢者に見られます。
歩行障害だけでなく、ペットボトルのキャップが開けられない等、日常生活でさまざまな不便が生じます。フレイルという加齢により心身が衰えた状態とも関係します。
歩行障害・姿勢の
ゆがみの検査
放射線学的検査、生理検査
全脊椎X線検査
股関節、骨盤骨を含めた脊椎全体を、正面や側面から撮影します。
当院では、首から骨盤までを一度で撮影できる「長尺デジタルレントゲン」を導入しております。
CT
脊椎骨の形態を正確に観察することができます。骨折、靭帯骨化症などの診断も可能です。
MRI
脊柱管内の神経組織の状態を正確に観察することができます。脊椎症、椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症などの診断に役立ちます。下肢動脈の血流評価により閉塞性動脈硬化症の診断が可能です。
骨密度検査
骨粗鬆症の診断、予防のために骨密度を測定します。骨粗鬆症の場合には、食事療法・薬物療法・運動療法などによる治療を行います。
ABI
足首と上腕の血圧比を測定する検査です。
腰部脊柱管狭窄症と閉塞性動脈硬化症の鑑別などに役立ちます。
姿勢・歩行評価
現在の姿勢、歩行の状態を分析・評価する検査です。専門の療法士とチームで評価します。
筋力・関節可動域・関節の動き方・股関節内転筋の緊張・荷重感覚などさまざまな項目について調べ、どこにどのような問題があるかを把握します。
検査結果に応じて、姿勢や歩行の指導、その他必要な治療を行います。
歩行障害と姿勢の
ゆがみの治療・改善方法
歩行障害の治療においては、主に以下のようなことを行います。
なお歩行障害の原因疾患が見つかった場合には、その疾患に応じた治療も必要です。
筋力トレーニング
下肢の筋肉や腹筋・背筋などを中心に、正しい歩行を行うための筋力トレーニングを行います。
動脈硬化が原因となる閉塞性動脈硬化症の改善においても、筋力トレーニングなどの運動療法が、一定の有効性を示します。
バランス
トレーニング
歩く時、および立ち座りする時などのバランス感覚を鍛えるトレーニングを行います。
バランス感覚が低下したままだと、つまずいた時などに大きな転倒をしやすくなります。
歩行補助具の選択
現状の歩行状態に合わせて、必要な歩行補助具を選択・使用します。
歩行補助具としては、杖、松葉杖、歩行器・歩行車などがあります。
姿勢指導・歩行指導
問診や各種検査の結果に合わせて、正しい姿勢・正しい歩行のための指導を行います。
正しい姿勢と歩行を維持するためには、先述した筋力トレーニング・バランストレーニングが非常に重要になります。また、低下した可動域を回復させるためのリハビリテーションなども行います。
必要に応じて歩行補助具を使用し、無理のない指導をいたしますので、ご安心ください。姿勢や歩行の状態をスマホに記録して、指導の成果や経時的変化を確認していきます。